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鳥取大学副学長/井藤久雄
二十一世紀は「脳の世紀」、病(やまい)としての脳疾患よりも、脳の機能や<こころ>の問題が 今、重要視されている。
鳥取大学医学部には脳幹性疾患研究施設が設置されており、脳疾患全般についてユニークな研究を展開し、高度な医療を提供している。要は、脳疾患に強い。 他方、<こころの病>に関しては精神神経医学で医療として取り扱われている。しかし、情報がはんらんし、人間関係の希薄な現代社会では、放置すると病に至 る<こころの変調>を来す人が少なくない。医療以前の状態であり、この領域で活躍するのが臨床心理士である。
臨床心理士は心理学の知識や技術を駆使して、多様な問題を抱えた人を支援する「心の専門家」であり、欧米では一九〇〇年代から心理学的ケアと心理療法を 行う学問領域として発展してきた。他方、わが国では社会的認知が遅れる。<こころの変調>は個別的で、客観的に把握することが容易でなく、その対応を生業 (なりわい)として評価し、社会的に制度化することが難しい。ようやく九〇年から(財)日本臨床心理士資格認定協会が資格認定を行っているが、いまだに国 家資格ではない。
臨床心理士は小・中学校のスクール・カウンセラーとして最近、注目されているが、活躍の場は多種多様である。(1)職場の相談室(2)児童相談所・心身 障害者福祉センター・女性相談所など福祉分野(3)裁判所や少年院などの司法・矯正分野、さらに(4)病院・保健所・保健福祉センターなどの医療・保健の 現場-などがあり、社会的ニーズは高い。広島大学病院は<こころ>と<からだ>の調和を保ちながら患者を支援する緩和ケアチームに専属の臨床心理士を配属 している。
二〇〇六年三月現在、全国で百四十六大学院(修士課程)が臨床心理士養成コースを設置しており、約一万五千人が資格認定を受けている。養成コースのないのは鳥取県を含めてわずかに七県。
昨年五月、鳥取県と鳥取大学との意見交換会の場で、臨床心理士養成が話題になった。「医学部で臨床心理士養成は可能か」、能勢学長から検討を指示された。早速、調査を開始したが、臨床心理士コース(修士課程)を医学部に設置することについては多くのあい路があった。
その第一は人的財源。国立大学法人では〇六年度から人件費を毎年1%、五年間にわたって削減される。原給保証という制度があり、給与の削減はできない。 従って、教職員数を5%削減する必要がある。修士課程のある医学部保健学科には六人の教員削減をお願いしていた。コース設置には臨床心理士が最低五人必要 であり、そのうち教授は二人以上。
第二の問題は優秀な教員の確保。前田保健学科長を中心に「お嫁さん(教員)」探しを急いだ。結果、比較的若いが日本トップクラスの教授三人がそろった。 ひそかに誇っている。あと二人の准教授、講師にもめどが立った。十月からは臨床心理相談室が活動を開始する。学外実習施設の整備も急がれており、鳥取県や 地域の協力が不可避である。
こうした問題点が比較的短期間に解決できたのは保健学科教員の協力、能勢学長の指導力、大学役員会の理解がそろったからである。制度的には国立大学が法人化され、学生数に変化がない限り、コース設定が比較的容易となったことも幸いした。
臨床心理学コースは教育学研究科、心理学研究科、人間科学研究科など文系大学院に設置されている。医学部研究科(大学院)に設置されるのは鳥取大学が初 めてであり、関係者の間では既に話題となっている。医学部に設置された臨床心理士コースの特徴、それは、付属病院、特に精神神経医学領域との連携。<ここ ろの変調>や<病気>に苦しむ患者のカウンセリングに関しては十分な経験が積まれる。認知症の診断は臨床心理士の本来的業務、と言っていい。
逆に、細分化、専門性の進む医学・医療にあって、全人的医療人育成にも効果的。医学・医療を基盤とした臨床心理学の新たな展開が始まろうとしている。
八月には鳥取大学医学部臨床心理士コース(修士課程、定員五人)の入学試験が実施される。優秀で意欲ある学生が集まることを期待している。
鳥取大学付属病院では「脳とこころのセンター」設置構想がある。<こころの変調>を来した人が必要としているのは医療か、カウンセリングなのか、その鑑別段階から、鳥取大学医学部で養成された臨床心理士が力量を発揮することであろう。
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DATE:2009/02/09 16:24
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